第13回  グランドセイコー

皆さんに「今一番欲しい時計はなにか?」と尋ねれば、ロレックスのデイトナ、サブマリーナ、オメガのスピードマスター、シーマスターといった答えが多いでしょう。色々な雑誌で、ランキングを発表していますが、トップ10のうち9つは海外ブランドで占められています。その中でベスト3には入らないものの常に1つだけ国産の時計がランクインしています。
それが、日本が世界に誇る高級時計グランドセイコーなのです。このグランドセイコーこそ、セイコーの哲学そのものと言えるかもしれません。
究極の精度とシンプルな美しさ、時計として当たり前のことを、全ての部分で徹底するという開発当初のポリシーは今も確実に受け継がれています。
1960年、時計の原点を徹底的に突き詰め、究極的な精度を実現させることにより、セイコー独自の「高級」の概念を確立するという目的のもと、グランドセイコーは誕生しました。クロノメーター規格さえも凌駕する独自の厳しい精度基準を設け、一点一点全てに歩度証明書という、検査の測定結果
全てを載せた証明書を発行しました。しかし1969年セイコーが自ら開発したクォーツ時計により、究極の精度の概念そのものが意味を持たなくなってしまい、1975年に「グランドクォーツ」と入れ替わりに機械式グランドセイコーは一時姿を消しました。グランドセイコーの名前が復活したのは、1980年代後半に、クォーツ時計の精度が月差から年差へと飛躍的に発展したときです。
この時は既存のクォーツムーブメントを搭載したため、トルク不足からグランドセイコー本来の太い針を使用することができず、多少線の細いデザインでした。1990年代に入り、グランドセイコー専用の「F9系キャリバー」を開発し、グランドセイコーの伝統を継承するデザインが復活しました。
そして機械式グランドセイコーが市場から姿を消して23年、1998年についに復活を果たしました。60年代当事の伝統技術と現在の最新技術を融合させて、スイスのクロノメーター協会基準を上回る新GS基準を設定しての登場でした。この機械式グランドセイコーの機械式ムーブメント「9S系キャリバー」は各パーツの製造から組み立て、調整に至るまで、最高精度の追求という「哲学」に貫かれ、徹底されています。機械式ムーブメントの精度を支えるのは、パーツの製造精度、その組み立ておよび調整技術です。
パーツの製造からその仕上まで、徹底的に品質管理され、最高のもののみ使用されます。パーツで、特に繊細さを要求される地板は0.01mm以内の精度で加工されます。それらのパーツを担当の職人が1つ1つ微調整しながら、組み立ててゆきます。アガキ(パーツ同士の隙間の誤差)は設計上0.05mmまで許されていますが、最高の職人は0.02~3mmで組み立てします。
人間の髪の毛の太さが0.08~0.1mm程度ですから、いかにすごい精度でパーツが製作され、組み立てられているのか、実感できると思います。
最終調整は、時計の調整技術を競う世界大会で優勝した技術者が、通常の10倍以上の時間をかけて行います。最も重要な精度を司るヒゲゼンマイの調整は、熟練の職人が30分以上かけて調節し、最終的には技術の最高責任者自らがチェックして完璧なバランスに仕上げます。妥協を一切許さず、職人としてのこだわりが最高の精度を維持します。このヒゲゼンマイの調整には、なによりも長い経験をつんで磨かれた感覚が必要になります。そのためセイコーではそうした職人の育成にも力をいれています。グランドセイコーの
高精度は、こうした技術者の経験に裏打ちされた熟練と技術の蓄積によって支えられているのです。
その上で、17日間にもおよぶ検査を行い、その一点一点全てに歩度証明書という、検査の測定結果全てを載せた証明書を発行しています。それゆえ、グランドセイコーは月産350本という少量しか生産できないのです。
しかし我々顧客にとっては、最高の技術で作られた時計が、厳格な審査をパスして、しかもその証明まで付いてくるのは嬉しい限りです。