第24回  ランゲ&ゾーネ ランゲ1

ビックデイトというカレンダー機構、日付けの1位と10の位を別々の窓で表示させることによって、従来より数倍大きな日付を表示できるもので、現在では、カルティエやモーリス・ラクロアなどが定番シリーズに採用されています。この元祖がランゲ&ゾーネのランゲ1に搭載されたアウトサイズデイトというメカニズムです。
これまでのカレンダー表示は、1から31までの数字が描かれた1枚のリングを順次回転させるものでしたが、アウトサイズデイトでは、0から9までの数字が描かれた1の位のリングと、その上にのる、空白および1から3までの数字の描かれた十字架型ディスクの組み合わせで表示しています。リング式カレンダーであれば、31日の次はかならず1日になりますが、アウトサイズデイトでは、32日とならないようにカムとストッパーを使って制御されています。
ランゲ&ゾーネ社(ドイツ語で「ランゲとその息子達」の意味)の創業は、1845年とロレックス(1905年)よりも古く、オメガ(1848年)やジャガールクルト(1833年)ユリス・ナルダン(1846年)など、高い技術力を持つ老舗時計メーカーど同時期になります。フランス、イギリス、スイスで修行をした時計職人のアドルフ・ランゲがドイツのオーレ山脈地域の貧困さに驚愕し、グラスヒュッテに時計工房を開いたのが始まりです。 現地の若者15人を時計職人として養成し、これをきっかけにこの地方に時計産業が花開くことになりました。 そして現在、グラスヒュッテはドイツの時計の聖地として栄えています。
1863年にクロノグラフの製造に成功するなど、数多くの複雑時計を世に送り出し、名実ともにドイツ時計界の最高峰を極めました。しかし、第二次世界大戦の勃発により、工場が焼失してしまい、停戦後の1948年には、東西冷戦のため、旧東ドイツに属することになったグラスヒュッテの工場はすべて国有化されてしましました。その当事、家業を継いだ4代目ウオルター・ランゲは西ドイツに亡命し、ランゲ&ゾーネの社名は消えてしまします。さらにクォーツショックにより、機械式時計メーカーが事業縮小や廃業に追い込まれ、ランゲ&ゾーネの名前は40年近く封印されてしまいました。しかしウオルター・ランゲは時計への情熱を失わず、スイスIWC社と接触し、機会を待ち続けました。
1989年ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツの統一が始まると、ウオルター・ランゲは直ちにグラスヒュッテに舞い戻り、IWC、ジャガールクルト、ドイツ・マンネスマン財団等の支援を受けて、ランゲ&ゾーネ社を復活させました。そして1994年、ついに新生ランゲ&ゾーネ社の第1弾モデルである「ランゲ1」が誕生したのです。ケースはK18かプラチナの無垢仕上げ、文字盤はシルバーを使い、先に説明した世界初のビックデイト表示のアウトサイズデイト機構を1時位置に搭載し、9時位置にオフセットされた時針、分針と5時位置のスモールセコンドが只者ではない独特の雰囲気を作り出しています。このビックデイト表示はその後、時計界のトレンドになったほど、このモデルの影響は大きく、新生ランゲ&ゾーネ社の象徴となりました。
1994年10月には超複雑時計トゥールビヨン・プール・ル・メリット(トゥールビヨンおよびゼンマイトルクの調整をする鎖引き機構を組み込んだモデル)を発表し、ランゲならではの技術力の高さを世界にアピールし、再建後、僅か数年で時計界の最高峰の1つとして賞されるようになりました。 さらに2005年末には、ブランド創設160周年および再生15周年を記念して、上記モデルにスプリットクロノグラフ機構を追加した、トゥールボグラフ・プール・ル・メリット(価格は税込み5150万円)が発表されており、その技術力の高さには益々磨きがかかっています。