第27回 ジン EZMシリーズ

ジンというブランドは、まさに質実剛健なドイツの時計、といったモデルをリリースしてきます。もとはドイツ軍パイロットで飛行教官でもあったヘルムート・ジンがパイロット用の時計を作り始めたことが発端です。視認性、機能性をとことん追求し、無駄な装飾を省き、堅牢に創られた製品は、時計というよりも航空計器に近いものでプロフェッショナル達の要求を完全に満たしていました。
こうしたジンの技術力、時計作りにおける信念を見込んで、ドイツ税関犯罪局の特殊部隊ZUZが部隊用の時計の開発を依頼してきました。ZUZは、兵器、麻薬密輸など、国境を越えた組織犯罪に対してアジトを急襲するといったような危険で際どい任務を遂行する戦闘部隊です。そうした極めて過酷で特殊な任務に使用する時計として開発されたのが、EZM1です。
EZMとはドイツ語でEINSATZ(出撃)、ZEIT(時刻)、MESSER(計測機器)の略でまさに特殊目的を行なうスペシャリストの時計となっています。この時計はクロノグラフ(計時機能)を装備していますが、普通のクロノグラフに有るようなスモールダイアルはありません。ZUZの作戦行動は通常15分以内で終了するため、不要なスモールダイアルを省くことによりメインの時刻針の視認性を妨げないようにしています。また、通常、右利きの人用の時計は操作し易いように、リューズをケース右側に配していますが、作戦開始後は終了までリューズをする必要がないため、激しい動きを行なう作戦行動中に時計をはめている左手首を痛めないように左側に配しています。さらに、マイナス20℃~70℃まで耐える仕様で、寒い屋外から暖かい室内へ突入する場合などの急激な温度変化による結露を防止するためドライカプセルを装備し、アルゴンガス充填と特殊オイル使用により、精度低下を防いでいます。ムーブメントにはセンタークロノグラフ針を持つ、レマニア5100(オートマチック)を採用し、飛行機型の大きな計時針を装備することで、時間の経過が一目で分かるようになっています。また、ケースには軽量で対蝕性に優れたチタンを使用しています。
このEMZはシリーズ化されて、現在4機種、EMZ4までリリースされています。EZM2はドイツ国境警備隊の対テロリズム専門の特殊部隊GSG9からの要請で開発されたダイバーウォッチです。GSG9はその任務の内容から、射撃、通信、突入、ダイビング、ロープ降下などすべてにおいてスペシャリストでなければならず、テロリストから狙われる可能性もあるので、隊員構成、氏名、身分など一切公表されていないシークレット部隊です。その部隊の要求として、視認性および対圧力、対衝撃性を最も重視したため、クォーツムーブメントを採用し、さらにケース内部をシリコンオイルで満たすことにより、理論上無限の耐圧性能をもっています。 (ただし、ムーブメントの安全性を考慮して500気圧防水を表示しています)
この時計は、ドラマ「海猿」第4話で主人公が恋人からプレゼントされるものと同じものです。 (あまり出番はありませんでしたが…) EZM3は、ETAのオートマチックムーブメントと軟鉄製インナーケースを採用し、対磁性を強化したダイバーウォッチで、ドイツ警察特殊部隊からの要請で開発されました。EZM4は、ドイツ消防救急隊とファイアーレスキュー専門誌との共同開発で作られたモデルで、EZM1と同じくレマニア5100のムーブメントが採用されています。このEZM4の特徴は、蛍光塗料で色分けされた文字盤にあります。 消防隊で使用する酸素ボンベの最低持続時間が30分であるため、15分ごとに黄色、赤で色分けされ、救出地点への到着に15分、要救助者の救出、現場からの脱出に15分のタイムリミットが一目で分かるようになっています。
また、秒単位の計時を瞬時に把握するため他のモデルには無いスモールセコンドを装備、ケースは金属との接触で火花が出る可能性の高いチタンを避け、ステンレススチールを採用しています。
レマニア5100ムーブメントの生産中止により、EZM1,4は生産中止となっており、再生産は無いでしょう。 EZM2も現在、生産中止となっており、EZM3以外は、中古で探すしかありませんが、マニア性の高い機種ですので、見つけたら即GET!でしょう。