第33回 ロレックス ミルガウス

ロレックスは2000年に新型デイトナを発表して以来、サブマリーナやGMTマスター等、モデル発表50周年を記念して限定モデルを出したり、定番のデイトジャストに新型ケースを採用し、ブレスを無垢にするなど市場に新型モデルを投入し続けてきました。そして2007年のバーゼルフェアで、ついに伝説の「ミルガウス」が復刻しました。
「ミルガウス」はもともと、物理学者や電気技師など磁力の影響を受け易い環境で働く人をターゲットにして1958年に誕生しました。特殊な耐磁素材でムーブメントを覆い、当時としては画期的な8万A/m(1000ガウス)の磁界に耐える特殊時計でした。 しかし、当時は現在ほど身の回りに磁気を発生するものが無く需要も限られたため、生産本数が少なく80年代後半に生産中止になってしまいました。しかし、そのため希少性が上がり、アンティークロレックスの中では「デイトナポールニューマンモデル」と並んで高値で取引されており、特にイナズマ型秒針を有する初期型は当時の価格では20万円ほどでしたが、コンディションがよければ800万円以上の値段がつくこともありました。
今回ロレックスが復刻した「ミルガウス」ですが、デザインは基本的に旧型を踏襲していますが当然のことながら最新の技術が投入されています。旧モデル発売当初は需要が少なく、一般の人にはあまり受けいれられなかった「ミルガウス」も現代では違います。我々の周囲には、携帯電話やパソコン、スピーカー、TVなど強力な磁気を発生する機器が溢れ、また車の電動シートなど、意外と気が付かないところにも磁気を発生するものが多くあります。そのため、現代では一般の人であっても耐磁時計が必要になってきているのです。 耐磁時計の基本構造である、ムーブメントを耐磁合金のインナーケースで覆うという方法は変わっていませんが、時計の精度にもっとも関わってくるヒゲゼンマイに新素材「パラクロム」を採用しています。 通常、ヒゲゼンマイは耐磁性を向上させると、温度変化による誤差が大きくなってしまい、温度変化の影響を受け難くすると耐磁性が落ちてしまいます。 しかし、この「パラクロム」は、ニオビウムとジルコニウムを使用することにより、耐温度変化性を低下させずに耐磁性を向上させることに成功しています。このヒゲゼンマイはすでに、新型デイトナのムーブメントに採用され、実績があります。
また、耐磁時計復刻の理由は他にもあります。 ムーブメントをインナーケースにいれることにより、時計ケースのサイズがどうしても大きくなってしまいますが、1980年代は時計はとにかく、薄く、軽く、というのが流行であったため、厚く、重い耐磁時計は受け入れられませんでした。しかしここ数年の「でか厚ブーム」により、市場が直径40mmを越える大きめの腕時計を普通と考えるようになってきたため、一般の人にも抵抗なく耐磁時計が受け入れられるようになり、それが次の新製品を模索していたロレックスの思惑と一致したのです。
新生「ミルガウス」は、全体のスタイルはセカンドモデルを、細部のディテールはファーストモデルを踏襲し、特に「MILGAUSS」のロゴと秒針のオレンジ色のイナズマ針は、マニアにとって涙物です。 また、復刻記念モデルは、風防のサファイアガラスにロレックスのイメージカラーのグリーンがあしらわれており、発売前からプレミアが付きそうな勢いです。