第26回 時計業界2006年の傾向

ここ数年、スイス2大時計フェアの、バーゼルフェアとジュネーブサロンにおいて、どんな新作が発表されるかが、世界中の注目を集め、時計雑誌等もこぞって特集するようになりました。そこで各メーカーもとにかく話題作りにと、目新しいデザインや新機構、複雑機構を搭載したモデルを数多く発表してきました。それが2005年のトゥールビヨンブームとなり、ブライトリングやシャネルなど、思いもしなかったようなブランドまでトゥールビヨンモデルを発表してきました。
しかしながら2006年は、技術力は示せても実用性が薄く、非常に高価となるトゥールビヨンモデルは少なくなり、時計の最も基本的で重要な「正確な時刻を安定して表示する」機能を進化させたモデルが主流になってきました。その1つがシリコン製のガンギ車とヒゲゼンマイを使った脱進機です。脱進機とは時計の精度を司る中心の機構で、ヒゲゼンマイによるテンプの往復回転運動を、アンクルとガンギ車により安定した等速回転に変換するところです。この機構はほとんどの機械式時計に採用されており正確に動くためには、適切な潤滑が必要です。しかし、完全な潤滑油は無く、次第に劣化して行くため、オーバーホールによる洗浄、再潤滑油注油が必要となります。 これらの部品をシリコンに変更すると、潤滑油が不要となるため、メンテナンスがずっと楽になります。このシリコン製脱進機はパッテックフィリップ、スウォッチグル-プ、ロレックスの3社が共同で開発しており、いずれ各メーカーのムーブメントに搭載されるものと思われます。また、新機構ではプッシュボタンが無く、風防の端を押して特定方向に本体を傾けることにより、クロノグラフをスタートストップ操作するジャガー・ルクルトの「アムボックス2クロノグラフ コンセプト」が注目を集めていました。さらに各メーカーとも新素材の採用を積極的に行っています。
ゼニスの新スポーツ系「デファイ」シリーズは、本体にアルミ、チタン合金、カーボン文字盤、ブレスにケブラー繊維、SS、カーボンを使い、まさに新素材のオンパレードとなっています。また、他メーカーもセラミック、チタン、シリコン等を多く使ってきており、特にウブロの新シリーズ「ビック・バン」よりマグネシウムケース、チタン地板を世界初採用した「マグ・バン」は高い評価を受けています。このモデルは加工が非常に難しく、発火しやすいマグネシウムケースをイタリアのホイールメーカー「マーヴィック」と共同開発し、総重量65gという超軽量を実現しています。
デザイン面では以前のように奇抜で目を引くような派手なものは少なくなり、どこか懐かしさを感じさせるオーソドックスなものや、かつてのデザインの復刻版など「原点回帰」の傾向が強くなってきています。また、ケース素材で、超高級時計に上品なローズ(ピンク)ゴールドを使用する傾向もありロレックスでもローズゴールドのモデルを多数リリースしてきています。
文字盤色では、グレー系、ブラウン系の渋めの色合いで、落ち着いた大人の雰囲気を感じさせるカラーに人気が出てきているようです。また、フランクミューラ-、パネライ等に代表される「デカ厚」ブームもそろそろ終わりで、来年あたりより各メーカーともケース径40mm以下で薄型のモデルに主力を移行していくのではないか、との観測も出ているようで、次はどんな時計が流行るのか目が離せないところです。